JSFAでは、2021年12月に全国大会を予定し、開催県である徳島県を中心とした実行委員会と協議を重ねてまいりました。その結果、本年度の全国大会は延期し、来年度に開催予定とすることと決定しました。
その背景や理由、プロセスを説明します。長くなりますが最後までお付き合いください。
【精神疾患・障がい者と医療福祉の関与について】
精神疾患・精神障がいのある人(以下「当事者」と言います)の多くは再燃・再発を生じる可能性があります。それを防止し、安定した日常生活を送るため、多くの当事者は定期的な通院および服薬が必要とされています。また、薬による治療だけでなく、リハビリテーションを行いセルフケアの能力を高めることも重要であり、デイケア等医療福祉施設がその役割を担っています。精神障がいは他障がいと比べ障がいの度合いが変動するため、医療福祉施設を定期的に、多くの日数施設を利用します。医療福祉の必要性が高いことが特徴です。
【COVID-19流行に対する精神科医療福祉現場の思い】
精神科医療は、薬や治療技術の進歩に伴い今でこそ早期に治療し、早期に日常に戻すことが普通になっていますが、かつては長期入院が当たり前のようになっていました。今でも「長期入院」(1年以上)の患者が19万人以上います(2019年度精神保健福祉資料)。
これらの方の多くは高齢化し、COVID-19を発症すれば重症化する可能性が高いのですが、精神疾患がある方の合併症を治療してもらえる医療機関は限られています。また、院内クラスターが発生したときに精神科病院が受けられる支援は限定されており、当該病院で抑え込むことを求められます。「クラスターが発生した病院」ということになれば、経営的・実際の医療対応も多大な困難を要するため、地域に貢献したいと思う病院であればあるほどリスク回避を考えざるを得ないという葛藤に陥ります。福祉現場も同様です。医療福祉現場はだれにでも開かれていることが要請される一方で、感染者を出せばマスメディアに報道をされ、ともすればそれがバッシングや差別になりかねない状況で受ける医療福祉現場のプレッシャーがいかほどのものか、想像していただければと思います。
【ソーシャルフットボールを支える人々が組み込まれている構造について】
ソーシャルフットボールを支えているのはまず選手とチームスタッフ、各種大会関係者です。精神障がい者スポーツは、スポーツをしたいという当事者と、それに応えたいとする医療福祉関係者が中心となり進んできました。スポーツは、精神障がいのリハビリテーションとして行われるという側面もあることから、他の障がい者スポーツに比べて、医療福祉関係者がスポーツの現場に関わる割合が高いと言えます。現在の感染状況では人命や医療提供体制の確保が最重要です。精神障がい当事者もスタッフも(意図せずとも構造上)この最重要課題の担い手となっています。スポーツを行う選手やスタッフはもちろん、送り出す方も「感染者が出て医療現場が止まったら広く迷惑がかかる」という考えが強く働くため、感染状況は精神障がい者スポーツ活動に強い影響をもたらします。このようなことから、活動再開のハードルはより高くなるのです。
【それで、全国大会は】
いつもの全国大会は、9地域の代表および開催地等10チーム強が1か所に集まり、2日間の日程で行われます。併設で主催地の運営するイベントも行われます。
問題は上に述べた精神障がい者スポーツの置かれた状況を考え、
- 地域によって異なる活動状況の中全国大会を開催する意義
- 出場チームの地域での感染状況
- 健康観察中や大会期間中出場チームで感染者が出た場合の扱い
- 感染対策を行う上での人員を含めた運営
- 併設イベントをどうするか
- 自治体や医師会との連携を含めた開催地のモメンタム
【結果へのプロセス】
- 実行委員会との対話
基本はフルスペックの開催を考えていましたが、中止や延期の基準を作り、また分散開催等のオプションも検討していました。 - 地域アンケートの実施
各地域の出場の有無や意見を伺いました。
特にこのコロナ禍で各地の活動状況には差があり、ほとんど活動できていないところから、すでに全国大会を見越して希望を持ち可能な限り練習をしているチームもあり、意見の相違がありました。 - JSFAと実行委員会での暫定的な結論
1,2を踏まえ、運営課題を話しました。感染対策に見合う運営スタッフの確保、危機管理、広い協力体制の構築について検討した結果、延期の結論といたしました。 - 各地域との対話
3の結論を各地域に提示し、地域、日数を限定した代替大会も検討しました。しかし全国大会ではないこと、それならば各地域が状況を見て判断すべきものであろうという結論に至りました。
【終わりに】
非常に残念ではございますが、今年度の全国大会は延期といたしました。全国大会を目指して練習を積み重ねていた選手、また一方で活動の中止を余儀なくされている選手、それぞれの思いがあると思います。多くの方々のご期待に沿えないことは痛恨の極みです。しかし、大会は大事ですが、フットボールの楽しみはそれにとどまりません。1個のボールをめぐって大いに遊ぶ、仲間ができる、成長する喜びを知る、そんな多くのものが詰まっていると思います。ソーシャルフットボールに、スポーツに終わりはありません。選手の皆さんには、できる範囲でいいのでフットボールを、仲間とのつながりを絶やさないでください。スタッフの方はそれを支えてください。そう心から願い、地域の方々とコミュニケーションをとりながら協会として必要な支援を行っていく所存です。
来年度はぜひ全国各地域のチームが集まってともに喜べる大会を開催できるよう、協会・開催地とも努力いたします。また、各地域の皆さまにもご協力をお願いいたします。最後になりましたが、すべての方々のご健康をお祈りいたします。
NPO法人日本ソーシャルフットボール協会
理事長 佐々 毅